今朝、登校してきた三人を迎えたのは飄々とした担任ではなく黒板に書かれた「自習」の二文字だった。呪術師としても忙しく働かざるを得ない五条にはままあることで、生徒たちにとってそれは何も珍しい光景ではなかった――の、だが。
教室に入った三人が足を止めた理由は、教壇の上にあった。
「……なによこの箱」
横に長いボール紙製の箱は、駅前でよく見るチェーン店のものだ。彼らの記憶が正しければ、箱の中には十個のドーナツが入っているはずである。
「『みんなでたべてね』だって」
生徒側の座席から見えるように貼られた紙を虎杖が読み上げ、箱を取り上げる。封代わりに貼り付けられたシールも剥がされた気配はなく、製造年月日は昨日のものだ。左右に軽く揺すってみれば、そこそこ重量感のある揚げ菓子の塊が、がさがさと小さな音を立てた。
「中身ちゃんとしてるっぽいけど、どする?」
「私ごはん食べてきたばっかりよ。今すぐは無理」
「俺も」
どうやら危険なものでも怪しいものでもないらしい、と判断した釘崎と伏黒は、教壇の前で箱を構えた虎杖を無視して着席する。
食べる、という選択肢を二人にあっさりと却下された虎杖はといえば、しばらく逡巡した後で箱を持ったまま自席へと着いた。
「昼んなったら机くっつけて食おうぜ」
「なにそれ小学校の給食?」
「そうそう、そんな感じ」
「じゃあ牛乳でも買ってくるか」
「お、いいねぇ」
各々が好き勝手なことをやりながら、箱の中身についての談笑が捗る。
中身の十個を三人でどうわけるのかで揉めるのは、また別の話だ。