――自分が助けた人間が、将来人を殺したらどうする。
虎杖に向けたその言葉に、俺は明確な回答を渡さなかった。
それは人それぞれに異なるものだと言うことがわかっていたし、何より俺の答えと虎杖の答えが噛み合うことなどないこともわかっていたからだ。
俺が助けた虎杖が、渋谷でたくさんの人を殺した。
虎杖だけに責任があるわけではない。でもきっと、あいつはそれをずっと背負い込むのだろう。
仰々しい和服。豪奢な和室。向けられる多くの視線。自分にはなにもないと思えていたのは、他の誰かが肩代わりしてくれていただけだったことを思い知った。
「当主様」
「禪院恵様」
呼ばれたこともない呼称。聞き慣れないその音に不快感だけが募って行く。
伏せていた目を上げて正面を見据えれば、うやうやしく頭を下げる人の姿に更に腹が立った。
「宿儺の器についてですが……」
「虎杖は――」
相手の言葉に被せるように、口を開いた。
自分の助けた人間が、将来人を殺したら。
そんなもの、答えなど最初から決まっていた。
アイツが何人殺そうが関係ない。
俺は不平等に、虎杖を助ける。