今日でもう三日目になる。
悪いのは多分、僕の方なんだろう。いつも通りに恵に依頼を回して、暇つぶしに着いて行って、たまたま通り掛かった甚爾もろとも恵が攻撃を喰らいそうになって――僕が咄嗟に助けたのは、恵じゃなくて甚爾だった。
まず前提として、二人ともあの程度の攻撃でどうにかなるほど脆くはない。それは僕もよく分かっていた。それからもうひとつ、もし二人にどうにもできない攻撃だったのなら、僕は恵を優先した。それが甚爾の隣にいるための最低条件だったからだ。
だから、そう。僕はあの瞬間「甚爾を優先したらどうなるのか」という事に興味が湧いてしまったのだ。
その結果がこれだ。甚爾はあれから今日まで、僕と目を合わせてくれなくなった。
「甚爾」
「なんだよ」
甚爾は相変わらず僕の部屋に居座って、僕が隣に座っても逃げも隠れも避けもしない。声をかければ答えてくれる。ただ本当に、目線だけが一切こちらを向いてくれない。
「まだ怒ってる?」
「何がだ」
「こないだの」
別に。と短く答えた甚爾に、僕は「そっかあ……」と少しだけ大袈裟に肩を落とす。このやり取りも三日目だ。
何が原因なのかの予想はもうついている。しかしそれを打開する策が僕にはなかった。甚爾の機嫌をどう取ればいいのか、皆目検討がつかない。
「……いつ俺が怒ってるっつったよ」
面倒そうなため息とともに、甚爾が言った。僕は項垂れていた頭を起こし、甚爾の方へと目を向ける。三日ぶりにこちらを向いた甚爾の瞳が、どこか気まずそうに僕の顔を見て、逸らされた。
「別に怒っちゃいねえよ。恵だって大した怪我もしてねえし」
「……甚爾」
僕の部屋着を来ている当時の首元が、耳が、ほんのりと色づいているのを僕は見逃さなかった。
「……なんだよ」
「もしかして照れてる?」
その質問に答えは返ってこなかった。沈黙は、肯定だ。
(吊り橋効果……だっけ?)
黙して語らぬその背中に飛びつきたい衝動をどうにか抑えて、僕は安堵の笑みを浮かべた。