親子丼

「親子丼食べたい」
 昨晩面倒なジジイの相手をさせられて疲れた僕は、その足で伏黒家に避難してきた。
 外は真っ暗で隣近所も寝静まり、いつも立ち寄るコンビニの前には深夜トラックが停まっているような時間帯だったのに、甚爾はめちゃくちゃ迷惑そうな顔をしながらも僕を家に入れてくれた。
 そのまま恵を間に挟んで川の字で寝て、起きた僕は甚爾と恵が朝ごはんを作っていのを見守りながら、SNSを辿っていた。
 そして目に付いたのは、ここからだと遠い地方にある個人店のメニュー宣伝写真だった。
 半熟の卵でとじられた鶏肉と、色艶のいい白米。彩に添えられた三葉と鮮やかな漆の器。本日のおすすめ親子丼!と言う文字列が可愛らしい絵文字で装飾されていた。
 そして出たのがあの一言だ。
「親子丼?」
 耳ざとい甚爾が僕の独り言に反応して振り返り、それにつられるように恵もこちらを見た。
 そう、親子丼。と返そうとしてふと気づいてしまった。そう言えば甚爾と恵も親子だ。
「あっ、別にやましい意味じゃなくて鶏肉を卵で閉じた料理の方だからね?」
 咄嗟の弁明は逆効果でしかなかった。甚爾は訝しげに眉を顰め、そして恵にこう言った。
「オマエ今日アレに近寄るなよ」
「待ってほんとに違うんだって!」

 誤解が解けたのは、夕飯に僕が親子丼を作った後だった。