時甚ワンライ:駅のホーム

 エンジンを止め、タバコに火を着けたところで着信音が鳴った。小さな液晶画面に表示されたのは、あえて母国語に変換して登録した仕事相手だ。予定よりも随分と早い、珍しいタイミングだった。
 通話ボタンを押して耳に当てると、ものすごい騒音が鼓膜を叩いた。繁華街の喧騒などとは違う、機械を通したノイズ混じりの騒音だ。高く響くベルの音に、独特のアクセントのアナウンス。軋んだ金属音と、ザワザワとした生身の喧騒。
「……なにがあった」
 状況と居場所を察して問いかける。やつに渡した今日の仕事は、この駅を使う呪術師の始末だった。
「飛び込んじまった」
 常と変わらぬ軽薄な声色でそう言って、喉を鳴らして小さく笑う。
「目が合ったから手ぇ振ってやっただけなんだけどな」
 どうすりゃいい?と続けられた言葉に、少しだけ迷って答える。
「そのまま駅出ろ。迎えに行く」
 仕事が終われば回収する予定で、近くに車を回していた。ただ時間が少しばかり早まっただけだ。
「マグロ食いてえ」
 動いた騒音の隙間から、事故現場にいるとは思えない発言が飛び出す。周囲に魚介を扱う店があったか、記憶を辿ろうとしたところに追加のオーダーが聞こえてきた。
「築地な」
「報酬から差っ引くぞ」
 短く告げて電話を切って、ろくに吸わずに短くなったタバコを灰皿でもみ消した。