ハロウィン2022

「トリックオアトリート!」
「……は?」
 珍妙な掛け声と共に差し出された二対の手のひらに、甚爾は呆けた声を出した。
 今日がどんな日なのかを知らないわけではない。――が、知ったのはつい最近、外で知り合った人間から聞かされた程度だ。
 目の前に並んでいるのは、ここ暫く自分の後を付け回している子供と、やたらと頻繁に訪ねてくる子供のふたりだった。
「とうじくん、お菓子持ってへんの?」
 三角帽子にローブを纏った直哉が小さく首を傾げて言って、
「じゃあイタズラだ」
 牙をつけ、マントを羽織った悟が目を輝かせてそう続けた。
 出がけに面倒なものと鉢合わせてしまったと、甚爾は腹の底からため息をついて、袂を探った。
「ほら」
 小さな手のひらにひとつずつ、銘柄の違う飴を落とす。街でひっかけた女に貰ったものだった。ミルク味とイチゴ味。適当に掴んだにしては子供向けのを引けた方だろう。ハッカや漢方の効いたのど飴も混じっていたはずだ。
「それやるからさっさと帰れ」
 お互いの飴を見比べている二人の間をすり抜ける。うっすらと曇った空は暗く、灯りの乏しいこの離れの辺りは半ば闇に覆われていた。
「とーじ出掛けんの?」
「とうじくんへのイタズラもちゃんと考えて来たんになあ」
 二人が提げた南瓜の提灯が、甚爾の背中を淡く照らす。
 掛けられた幼い言葉を無視して、甚爾は外門へ向けて歩を進めた。最近は、勝手に閂を抜いて外に出ても、何も言われなくなった。
 つい先日、知り合ったばかりの男から預かった通信端末を取り出して、時間と場所だけが書かれたメッセージを開く。
――オマエにしか頼めない仕事がある。
 あの男が自分の何をどこまで知っているのかは定かでは無いが、甚爾にとってそんなことは瑣末事に過ぎなかった。
「呪術師を殺せるか」と問われ、応と答えた。それだけの話だ。
 普段は目立つ和装でも、この天気に今日の日では、誰も気にもとめやしないだろう。